
顎の音には、開け始めに鳴るものと、開ききる手前で鳴るものがあります。この二つは、意味が違います。
普通に食事をしているときは何ともない。会話でも気にならない。ところが、あくびをしたとき、歯科で大きく口を開けたとき、大きな食べ物にかぶりつこうとしたときに、ゴクッとした音とともに顎が動く。
こういう鳴り方をする方から、目黒の当院でもご相談をいただきます。痛みがないことも多く、放置している方がほとんどです。
ここで多くの方が考えるのが、顎が硬くなっているのではないか、ということです。硬いから引っかかる。だから開く練習をしたほうがいい。この発想は自然ですが、この鳴り方の場合は逆である可能性があります。

顎関節の動きは、単純な蝶番ではありません。
口を開けるとき、下顎の骨の先端は二つの動きを組み合わせています。最初はその場で回転する。ここまでは、指が二本ほど入る開口量です。そこからさらに開けようとすると、骨の先端は前方へ滑り出します。この滑走によって、大きく開けることが可能になります。
滑っていく先には、関節結節という骨の出っ張りがあります。受け皿の前方にある傾斜で、下顎の骨の先端はこの斜面を前下方へ下っていきます。
最大まで開けると、骨の先端は関節結節の頂点に達し、場合によっては越えて前へ出ます。ここが今回の話の中心です。
越える瞬間に、ゴクッという音が出ます。開け始めの引っかかりで鳴る音とは、機序がまったく違います。前者は関節の中のクッションを骨が乗り越える音、後者は骨そのものが結節を越える音です。
成人の開口量は、上下の前歯の間で40ミリから50ミリほどが目安とされます。縦にした指が三本入る程度です。これが40ミリに届かなければ制限があり、50ミリを大きく超えるようであれば、動きすぎている可能性を考えます。
関節が過剰に動く状態を過可動と呼びます。顎に限った話ではなく、全身の関節がやわらかい方に多く見られます。肘が反る、指が反る、身体がやわらかいと言われてきた。こうした方は、顎も同じ性質を持っていることがあります。女性に多い傾向も知られています。

ここが、最も注意していただきたい点です。
顎に音がある、動きにくい感じがする。そう思って、大きく口を開ける練習をする。顎を左右に動かして鳴らす。硬さをとろうとして、あえて限界まで開ける。
開口に制限がある方であれば、この方向で正しい場合があります。ところが、過可動が背景にある場合、同じことをすると状態は進みます。
理由は単純で、すでに越えてはいけない範囲まで動いているところに、さらに動かす刺激を加えているためです。関節を支えている靭帯や関節包は、繰り返し伸ばされると緩みます。一度緩んだ組織は、筋肉のように鍛えて戻せるものではありません。
そして、この方向に進んだ先にあるのが、開いたまま閉じられなくなる状態です。あくびをした拍子に顎が外れ、口が閉じられない。自分で戻せるうちは亜脱臼と呼ばれますが、戻せなくなれば脱臼です。繰り返すうちに、より軽い動作で起こるようになります。
つまり、同じ音でも対処が真逆になります。開けにくい方は動きを引き出す方向へ、開きすぎる方は動きを抑える方向へ。自分がどちらなのかを確かめないまま対処を始めるのは、賭けに近い行為です。
もう一つ知っておきたいのが、筋の働きです。過可動の状態では、関節そのものが安定を提供してくれません。そのぶん、周囲の筋が制御を引き受けます。噛む筋肉が常に軽く働いて位置を保とうとするため、顎の疲れや、こめかみの張りとして自覚されることがあります。音は痛くないのに、顎が重いという訴えの背景に、この構図が隠れている場合があります。

まず、自分の開口量を測ってください。
人差し指、中指、薬指を縦に揃えて、上下の前歯の間に入れます。三本がすんなり入るなら、開口量は保たれています。二本しか入らない、あるいは三本目が途中で止まるなら、制限がある側です。三本が余裕をもって入り、四本目も入りそうなら、動きすぎている可能性があります。
次に、音が鳴るタイミングを確かめてください。鏡の前でゆっくり開けていき、どの時点で鳴るかを見ます。開け始めて間もなく鳴るのか、ほぼ開ききったところで鳴るのか。前者は関節の中のクッションの問題、後者は動きすぎの問題を示すことが多くなります。
あわせて、身体の他の関節も見てください。肘が反る、指が手の甲側へ大きく反る、開脚がやわらかい。全身の関節がやわらかい方は、顎も同じ性質である可能性が高くなります。
過可動が疑われる場合、ご自身でできることは動きを抑える方向です。あくびのときに顎の下へ手を添えて、開きすぎないようにする。大きな食べ物は切ってから食べる。顎を鳴らす癖をやめる。開口の練習やストレッチは行わない。舌先を上顎につけたまま口を開けると、開口量が自然に制限されます。
鍼灸整体院 Re-Aneでは、顎関節のご相談に対して、まず開口量と、下顎がまっすぐ下りているかを確認します。そのうえで、咬筋と側頭筋の緊張の左右差、頭部が体幹に対してどの位置にあるか、頸部がどの方向に動きにくいかを確認し、施術の組み立てを決めます。
過可動が背景にある場合、顎をゆるめる方向の施術だけを行うと、かえって不安定になります。噛む筋肉が働き続けているのは、関節が安定していないことへの反応である可能性があるためです。ゆるめるべきか、支える条件をつくるべきか。ここを見誤らないことが要になります。
なお、口が開いたまま閉じられなくなった場合は、急いで歯科口腔外科を受診してください。自力で無理に戻そうとすると、状態を悪化させることがあります。開閉の途中で引っかかって動かなくなる、顎の腫れや発熱がある、転倒や打撲のあとから痛みが続いているという場合も、医療機関での確認が先になります。
顎が硬いと思い込んで開く練習を続けている方は、一度、自分がどちらの型なのかを確かめてみてください。鍼灸整体院 Re-Aneは目黒駅から徒歩4分、完全予約制です。
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実際に通われた方の経過は、改善事例のページに掲載しています。
■ この記事を書いた人
榎園 高一郎(えのきぞの こういちろう)
鍼灸整体院 Re-Ane 院長
【国家資格】
鍼灸師/あん摩マッサージ指圧師
【関連資格】
JCR登録カイロプラクター/NESTA-PFT/登録販売者/毛髪診断士
歯科法人が運営する鍼灸マッサージ院で歯科医師と連携し、顎関節症と食いしばりを多数担当。訪問マッサージや姿勢矯正専門院での臨床を経てRe-Aneを開院。自身も長年の腰痛に悩んだ経験から、痛みは患部だけの問題ではないという考えに至る。
現在は顎関節症と食いしばり、慢性腰痛、坐骨神経痛、発毛促進を目的とした育毛施術を専門としている。
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