
顎関節と外耳道は、数ミリの骨の壁を隔てて隣り合っています。この距離の近さが、耳の症状と顎の状態が結びつく出発点です。
耳の奥が詰まる。耳鳴りがする。ふわっとしためまいがある。そのまま耳鼻科を受診したものの、検査では異常が見つからなかった。原因が分からないまま過ごしている。目黒の当院にお越しになる方のなかに、この経過をたどってきた方が一定数いらっしゃいます。
そして、問診を進めていくと別の話が出てきます。夕方になると顎が重い。朝起きたときに顎がだるい。仕事に集中していると、気づくと奥歯を噛み締めている。耳と顎を別々の問題として考えていたので、本人はこの二つを結びつけていません。
耳の症状が必ず顎から来るわけではありません。ただ、この二つが構造の上でつながっていることは、知っておく価値があります。

なぜ顎の緊張が耳や頭に響くのか。理由は一つではありません。
一つめが、位置の近さです。口を開けたまま耳の前に指を当てると、下顎の骨の先端が動くのが分かります。その骨と外耳道の間にあるのは、ごく薄い骨の壁だけです。顎関節に負担がかかっている状態が続けば、その影響が隣接する組織に及んでも不思議ではありません。
二つめが、神経の支配です。ここが最も見落とされやすい部分だと思います。
中耳には鼓膜張筋という小さな筋があり、大きな音が入ったときに鼓膜の張りを調節しています。この筋を支配しているのは、咀嚼筋と同じ三叉神経です。さらに、耳管の開閉に関わる口蓋帆張筋も同じ支配を受けています。
つまり、噛む筋肉と、耳の中で働く筋肉は、同じ神経の系統に属しています。噛み締めが続いて三叉神経の活動が高い状態が保たれると、耳の中の筋にも影響が及ぶ可能性が考えられます。耳が詰まる感じや、自分の呼吸音が響く感じは、この経路で説明されることがあります。ただし、この仕組みについては検証の途上にあり、断定できる段階ではありません。
三つめが、痛みの情報が合流する場所です。三叉神経が痛みの情報を伝える脳幹の領域には、首の上部から上がってくる神経の情報も入ってきます。顔と首の情報が同じ場所で処理されるため、どこから来た信号なのかが曖昧になります。
これが関連痛と呼ばれる現象です。咬筋の深い部分が緊張していると、耳の中や耳の前に痛みとして感じられることがあります。側頭筋の緊張は、こめかみから側頭部の頭痛として現れ、ときには上の奥歯の痛みとして自覚されます。歯科で異常が見つからないのに歯が痛む、という訴えの背景に、この仕組みが関わっている場合があります。
めまいについては、さらに慎重に考える必要があります。顎関節や咀嚼筋、頸部の筋には、身体の位置を感知するセンサーが多く含まれています。ここからの情報が乱れると、平衡感覚に影響する可能性が指摘されていますが、こちらは仮説の域を出ていません。

こまで読んで、原因が分かったと感じた方がいるかもしれません。その判断が、最も危ないところです。
耳鳴りやめまいの背景には、聴力の低下、内耳の異常、血管の問題、神経の病変など、放置すると回復が難しくなるものが含まれます。顎が原因だと自己判断して施術に通い続け、必要な対応が遅れることは避けなければなりません。
順序としては、耳鼻咽喉科での確認が先です。そのうえで、器質的な異常が見つからなかった場合に、はじめて顎や頸部の要因を検討する段階に入ります。当院でも、耳の症状を伴う方には、まず受診状況を確認しています。
とくに、次に当てはまる場合は急いでください。片側だけ急に聞こえにくくなった。耳鳴りが脈打つように感じられる。回転するようなめまいで吐き気を伴う。手足のしびれや、ろれつの回りにくさがある。強い耳の痛みや、耳だれがある。これらは別の対応を要する状態です。
もう一つ、押さえておきたい点があります。仮に顎の緊張が関わっていたとしても、咬筋や側頭筋をゆるめるだけでは戻りやすいということです。
噛み締めが続く背景には、下顎の位置が保ちにくい状態があります。画面を見る姿勢で頭部が前方へ移動すると、下顎を支える筋の釣り合いが変わります。顎の下側にある筋群が引き伸ばされたままになれば、下から支える力が落ちます。その分を補うために、噛む筋肉が働き続けることになります。
顎だけをゆるめて数日で戻るという経験があるなら、原因は顎の外側に残っています。

耳鼻咽喉科で異常が見つからず、顎の症状も抱えている。その場合、次の点を確認してみてください。
奥歯を軽く噛み締めたとき、耳の症状が変化するかどうか。頬骨の下、噛むと硬くなる部分を軽く押さえたとき、耳の奥に響くかどうか。こめかみを押さえたとき、頭の痛みが再現されるかどうか。一日のうちで耳の症状が強くなる時間帯と、顎が重くなる時間帯が重なっていないかどうか。
これらは診断ではありませんが、関連を考える手がかりにはなります。
鍼灸整体院 Re-Aneでは、耳の症状を伴う顎のご相談に対して、顎まわりだけを確認することはありません。咬筋と側頭筋の緊張に左右差があるか、頭部が体幹に対してどの位置にあるか、頸部がどの方向に動きにくいか、開口時に下顎がまっすぐ動くか、呼吸のときに胸郭がどう動いているか。こうした点を確認したうえで、咀嚼筋への鍼施術と、頭部の位置や日中の癖の見直しを組み立てます。
正直にお伝えしておくと、耳鳴りやめまいそのものを目的とした施術ではありません。顎や頸部の緊張が関わっている場合に、その条件が変わることで耳の症状にも変化がみられることがある、という水準です。ここを大きく見せるつもりはありません。
耳鼻咽喉科で異常なしと言われたまま、何をすればいいか分からない状態が続いている。そうであれば、顎と首の状態を一度確認しておく意味はあります。鍼灸整体院 Re-Aneは目黒駅から徒歩4分、完全予約制です。
顎関節の症状について詳しくはこちらをご覧ください。
頭痛が続いている方はこちらをご覧ください。
首や肩のこりを一緒に抱えている方はこちらをご覧ください。
疲れが抜けにくい状態が続いている方はこちらをご覧ください。
実際に通われた方の経過は、改善事例のページに掲載しています。
■ この記事を書いた人
榎園 高一郎(えのきぞの こういちろう)
鍼灸整体院 Re-Ane 院長
【国家資格】
鍼灸師/あん摩マッサージ指圧師
【関連資格】
JCR登録カイロプラクター/NESTA-PFT/登録販売者/毛髪診断士
歯科法人が運営する鍼灸マッサージ院で歯科医師と連携し、顎関節症と食いしばりを多数担当。訪問マッサージや姿勢矯正専門院での臨床を経てRe-Aneを開院。自身も長年の腰痛に悩んだ経験から、痛みは患部だけの問題ではないという考えに至る。
現在は顎関節症と食いしばり、慢性腰痛、坐骨神経痛、発毛促進を目的とした育毛施術を専門としている。
鍼灸整体院 Re-Ane
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