
マイクロニードルの話でいちばん引っかかるのは、傷と発毛が結びつかないという点だと思います。
皮膚に微細な穴を開ける。それだけで髪の状態が変わるなら、擦り傷を負った箇所から髪が生えてもよさそうなものです。実際にはそうなりません。何が違うのか。
鍵になるのは、傷の深さと規模です。目黒の当院で施術内容を説明する際も、ここを飛ばすと納得していただけません。効果の話に入る前に、身体の中で何が起きているのかを整理します。

皮膚が傷を負うと、身体は修復の手順を開始します。血小板が集まり、成長因子が放出され、炎症の段階を経て、新しい組織がつくられていく。この流れ自体は、どんな傷でも同じです。
毛包との関わりで注目されているのは、この修復過程で放出されるシグナルが、毛包の周囲にある幹細胞に届くという点です。毛包の膨大部と呼ばれる領域には、毛を作り直すもとになる細胞が控えています。また、毛包の下端にある毛乳頭は、毛の成長に関わる遺伝子が働く場所として知られています。
ここで関わるとされているのがWntと呼ばれるシグナル伝達の経路です。Wntは、毛包が新しく形づくられる過程や、休止期にある毛包が成長期へ移行する過程に関与することが報告されています。2007年には、マウスの皮膚に一定以上の範囲の創傷を作ると、傷が治る過程で毛包が新しく形成され、その現象にWntのシグナルが必要であることを示した研究が発表されました。傷の修復と毛包の形成が、同じ仕組みの上でつながっているという報告です。
マイクロニードルが狙っているのは、この経路を、組織を大きく壊さずに動かすことです。深く傷つければ瘢痕が残り、毛包そのものが失われます。浅すぎれば修復反応が起こりません。修復のスイッチが入り、かつ構造が保たれる範囲。この加減がマイクロストレスと呼ばれる考え方の中心にあります。
もう一つ、より単純で確実な作用があります。皮膚表面の角層は強固な障壁で、外から塗った成分の大半をここで止めます。微細な孔が開くと、この障壁を一時的に通過しやすくなる。同じものを塗っても届く量が変わります。マイクロニードルが単独ではなく組み合わせで用いられることが多いのは、この性質によるところが大きいと考えられます。

この分野で最も引用されるのは、2013年に報告された無作為化比較試験です。
軽度から中等度の男性型脱毛症の男性100人を2つの群に分け、一方には週1回のマイクロニードリングと5%ミノキシジル外用の併用を、もう一方には外用のみを行いました。12週の時点で、1平方センチあたりの毛髪数の平均変化は、併用群が91.4本、外用のみの群が22.2本でした。患者自身の評価でも、併用群では82%が50%以上の改善を報告したのに対し、外用のみの群では4.5%にとどまっています。
2018年にも同様の設計の無作為化比較試験が報告され、近年は複数の研究をまとめた系統的レビューとメタ分析も出ています。方向性としては一貫しており、外用薬にマイクロニードリングを加えると結果が上回る、という報告が続いています。
ただし、ここから言えることには限りがあります。
第一に、これらは外用薬との併用条件で得られた結果です。マイクロニードリング単独の効果を裏づける根拠は、併用の場合ほど揃っていません。第二に、針の長さ、施術の間隔、圧のかけ方が研究ごとに異なり、条件を揃えた比較になっていません。第三に、参加人数が限られた試験が多く、施術を受けている側が自分の群を認識できるため、完全な盲検化が難しいという構造上の弱点があります。
そして、Wntと毛包再生に関する研究の多くは動物やヒトの細胞を用いたものです。ヒトの頭皮で同じ規模の現象が起きていると断定できる段階ではありません。可能性を示唆する報告がある、という水準で受け取るのが妥当だと考えています。

当院では、マイクロニードルを単独では行いません。
9本の針を備えた2mmのスタンプ型の器具を用い、頭皮の状態を確認しながら部位ごとに深さと回数を調整します。そのうえで幹細胞培養上清液を頭皮に用い、超微細な高圧噴射で導入します。針で開いた経路と、圧による押し込みを組み合わせて、届く量を確保することが目的です。
ここは正直にお伝えしておきます。先ほど紹介した研究は、あくまで外用薬との併用で得られた結果です。当院の組み合わせがそれと同じ結果をもたらすという保証はありません。研究から引き継いでいるのは、微細な刺激が修復反応を呼び、経路が開くことで届く量が変わるという原理の部分です。
あわせて、頭皮鍼と首肩への鍼、あん摩を行います。修復反応を引き出しても、頭皮への血流が乏しい状態が続いていれば材料が届きません。刺激を入れる工程と、受け取る側の状態。この両方を扱う必要があると考えています。
受けていただく際は、次の点をご確認ください。
・施術後に頭皮の赤みが出ることがあり、通常は数時間から翌日程度で落ち着きます
・施術の間隔は最低10日、2週間おきを基本とします。修復には時間が必要で、頻繁に行えば早く変わるものではありません
・頭皮に強い炎症、湿疹、かさぶた、膿がある場合は施術を行わず、皮膚科での確認を優先します
急に円形の脱毛が現れた、短期間で広い範囲の抜け毛が進んだ、頭皮に強い痛みや発疹があるという場合も、まず皮膚科での確認をお勧めします。背景にある原因によって、取るべき対応が変わるためです。
何が根拠として示されていて、どこから先が推測なのか。そこを共有したうえで判断していただきたいと考えています。鍼灸整体院 Re-Aneは目黒駅から徒歩4分、完全予約制です。育毛施術については、火曜と水曜に専門スタッフが対応しています。
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